原子力事故の特徴

原発事故で放出される放射性物質の種類と拡散する距離に特徴がある。チェルノブイリ原発事故で、環境中へ放出された主な放射性物質を原発の最も近いところから並べると、プルトニウム、放射性ストロンチム、放射性セシウム、そして最も離れたところが放射性ヨウ素であった。福島原発事故でも同じ放射性物質が同じような様相で放出された。次に、放射能汚染が起こる範囲は、原子炉や核燃料の破損程度や気象条件によるが、非常に広い。チェルノブリ原発事故では北欧や欧州までの広範囲の汚染を起こした。今回の事故では福島から340km離れた静岡でも放射性セシウムの汚染がみられた。

さらに、原子力事故による環境放射能汚染に伴う被ばくの特徴は、拡散した放射性物質から放出される放射線を体の外部から受ける外部被ばくと体内に摂取した放射性物質の放射線を浴びる内部被ばくの複合被ばくを受けることである。ひとたび環境が汚染されると除去はほぼできない。したがって何十年、何百年それ以上にわたって、放射線被ばくを受けることになる。チェルノブリ原発事故、広島・長崎の原爆、ビキニ環礁核実験、東海村臨海事故にみられるように放射線の影響リスクが非常に長く続いているように。

原子力事故に対して国が原子力防災計画を策定、県や市町村が防災計画に基づいた具体的な準備や訓練を実施して対応できることになっている。国や県の原子力防災計画の基本は、人の放射線被ばくの回避や軽減にある。伴侶動物や家畜に関する対策はまったくない。ゆえに、今回の事故における汚染牛をみると、牛乳、稲ワラ、肉、畜肥などの汚染による汚染地域の直接的な被害だけでなく、汚染した肉の移動によって、日本全体の食の安心安全の崩壊や風評被害などの二次被害も拡大した。これも、原発事故の特徴である。

放射線の影響評価に「不確かさ」があり、大きな混乱や不安がおきることも特徴である。原因のひとつは被ばく線量の正確な測定が容易ではないことにある。外部被ばくは環境の空間線量率に滞在時間をかければ推定できるが、内部ひばくは呼吸量や経口摂取量、さらに排泄物の放射能など測定して、体内の挙動や臓器沈着率などの要因を考慮して推定するが、変動要因が大きいためである。さらに同じ線量を一度に被ばくするか、少しずつ長い時間に被ばくするかで、影響の大きさは異なるためである。もうひとつは人で障害が認められる線量は100mSv以上であるので、100mSv以下の低い線量の障害やリスクを明確に示す科学的証拠がないことにある。しがって法律で定めている公衆被ばくや職業ひばくの線量限度は、100mSvを基準にして安全な線量を推定した規制値である。ゆえに、今回のように値が変動したわけである。

放射線の影響リスクのない安心な生活を得るには、環境や食物中の放射性物質の量が事故前のレベルすなわち自然レベル(ゼロ)と同じになることである。放射能の影響を軽減するには、現実には放射性セシウムを例にあげると、半減期が30年と長いので、除染によって生活環境の線量を減らすか、気の遠くなるような長いながい時間をかけて自然に減衰するまで待つしかない。人も動物も放射能の影響を受けないためには、放射能汚染のない生活環境に移動して、汚染のない食事をするかしかない。放射能汚染による精神的な影響を長く受けるのも原子力災害の特徴である。